女中譚

女中譚

はじめタイトルだけを見たとき、これは短編集なのかと思い、一編読んで二編目、あぁこれ連作短編なのかと気づく。そしてどうやらそれぞれの話に下敷きとなる小説があるらしいことも。つくりは、FUTONとか、イトウの恋に似ている。下敷きありきの、視点を変えた物語。中島さんの得意とする作風。全編通して共通しているのはスミという老女の昔語りとして進んでいくこと。最初の話は、分からなくもないけれどさほど感情移入もできずに淡々と読んで、二編目ぐらいから私的にはぐっと面白くなった。一番好きなのは最後の話。それぞれの下敷きとなった物語も読んでみたいなと思いつつ。ただまぁ女中ってことで小さな家ともかぶってたり、下敷きとする物語があることで前に挙げた二作品とも似通うのでいまいち新鮮さはないけれど、展開のうまさだとか文章だとかは好み。
Nのために

Nのために

ふむ。一気に読んだので面白かったんだとは思うのだけれど、明かされれば明かされる程謎がたいしたことなくなるのが不思議。正直読めば読むほど「なんだかなぁ」ってなる。んでまぁこの人の書く狂った人たちには凄味がないからぺらっぺらに見えちゃうのね。断片的に語られるあらましみたいなものがあまりに断片過ぎて結局なんでこうなったんだっけ?って思ってしまうほどみんなバラバラ。よくつじつまがあったね。詰めの甘そうな人ばっかりだからばれそうだけど。まあ"犯人"たりえた人がおったから特に深くは追及されなかったのもあるんかしれんけど。恩田陸のほうが断然面白くしてくれたんじゃないかとか思ったのはたぶん合わなかったから。広げた風呂敷のたたみ方が下手なのかもなぁ。告白のときにもちょっと思ったけど。
この方のレビューはとても的確だと思います。棒日記セブン
砂漠の悪魔

砂漠の悪魔

"親友"の死から始まるこの物語。近藤さんは基本的にテンポよくぽんぽんと話を持っていくので読みやすい。夏樹の描写に、うっとうしいと思われても仕方ないやなぁって思ってしまう。広太の流されやすいうえに八方美人な性格に甘えまくっていた夏樹が、あっさりと自殺したことで彼はなんとも後ろ暗い世界に目をつけられて…。そこからの展開の早いこと。正直、最後の部分はなくてもいいんじゃないかとすら思う。これを書きたいがために、あえて1997年(だったっけ?)という設定にしたんだろうけれど、ううーん…。唐突すぎる。確かに一度きりしか使えないにしてもなんというか無理やり幕を下ろされた感じで釈然としない。強引だなぁ。ただそれ以外のウイグル人に関する記述だとかはとても興味深かった。中国には一度行ったきりで新疆には行けなかったのだけれど、いつか絶対行ってみたい。基本的に現在中国で自治区と言われている場所では大なり小なり同じような状況になっているんじゃないかと思う。自治区なんて名ばかりで「自治権あげるから独立しないでね」っていう中国政府のやり方だし。そのくせ個々の民族をかなり強引なやり方で括ったり、数で統制したり。中国は好きだけれど、中国政府のやり方はあまり好きではない。そういう意味では雅之の考え方の一部はとても納得できるし共感できる。ただまあほんと、最後のこの展開は必要だったのか。
アンダスタンド・メイビー〈上〉

アンダスタンド・メイビー〈上〉

アンダスタンド・メイビー〈下〉

アンダスタンド・メイビー〈下〉

人と人は正確に理解しあえない。いつだって[I understand you maybe]であって[I understand you totaly]にはなり得ないんだろうなぁ。それがたとえ血を分けた親子であろうと。 中学三年生の黒江(すごい名前。黒ってありなの?)が憧れの写真家から手紙をもらうところから始まる。何の予備知識もなく読み始めたので、いたって普通の成長物語的な話なのかなと思ったら大違いでした。そらそうか、島本理生だし。島本さん節全開のヘビーストーリー。黒江の学習能力のなさだとか人からの話を鵜呑みにしすぎる馬鹿正直さ(良い言い方をすれば素直さ)だとかに前半は結構イライラさせられました。後半慣れたのか主軸がずれたせいかあまり気にならず。自業自得とか言いながらでも絶対自分は悪くないって思ってそうだなぁこういう子。だとしても途中で出てくる警察の人が本当にむかつく。そして実際にいるんだこういうあほみたいなこと言う警察官が。基本的に警察の末端にはアホしかいないと思ってます。自分のことや気持ちを伝えないくせに「なんでわかってくれないの!?」って怒る女の典型みたいな黒江には彌生くんでなくても呆れて離れていく気がする。基本的に依存していることに気付かず依存している黒江みたいなのが一番厄介かもなぁ。そういえば、波打ち際の蛍もこんなキャラじゃなかったっけ?そういえば蛍くんは彌生くんになんだか似てる。 彌生くんといるときと羽場先輩といるときとでまるで全然違う子みたいな黒江。彌生くんといることでのびのびできてる彼女は読んでいて気持ちがいい。結果的にああいう形になってしまったけれど、やっぱりすべての原因はあれに起因してるの?ううーん。黒江の好きな部分は、別れた人とは一切の連絡を絶つところだな。連絡をとれるような別れ方してないのもあるんだろうけれど、懐かしさとかから連絡取っちゃいそうなものなのに。最後の希望あふれる終わり方と、気になる人たちのその後がわかったのには満足。
ツ、イ、ラ、ク

ツ、イ、ラ、ク

予想外だった。いろいろ。予備知識なく、姫野さんも二冊目と浅いおつきあい。田舎に住む隼子を軸としつつも、同級生の京美や、統子、頼子、温子、唐仁原、太田、三ツ矢、マミ、愛らのそれぞれの思惑だとか行動だとかをあっさりと的確に追っていくので飽きずに読みやすい。おそらく隼子と河原だけだと重たくなってしまうテーマを周りの人間も固めることでうまく掘り下げつつもずしりとさせてない。中学生男子の幼さ、そして中学生女子の幼さすらもくるんと包んでなんかいい時代だったよね、と過去に変えてしまったラストも含め、すごい小説だなと思う。たとえの妙だとかユーモアだとかとても好き。なんだけど、正直言われているほどに、この小説に入り込めなかったんだよなぁ。この小説の評価の高さに期待値もおのずと上がってたのはあるんでしょうが。ううーん。でも心に残るシーンだとか、フレーズだとかは結構あった。もしかしたらあと何年かあとに読むとまた印象がガラッと違うのかもしれない。再読の余地あり。(2011.09.30読了)